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コラム

エネルギー業界の雇用問題:クリーンエネルギーへのトランジションに向けて

<記事掲載日:2021年8月12日>


グリーンジョブを語るうえで、エネルギー業界の動向は最も重要な事項の1つです。エネルギー業界全体の雇用は、再生可能エネルギーの普及により現在増加傾向にあります。しかし、クリーンエネルギーへのトランジションが進む中、石炭火力を始めとするGHG排出が問題視されるエネルギー分野では、雇用の縮小・失業者の増加が課題となっています。 国際エネルギー機関(IEA)が2021年5月に発表した「Net Zero by 2050」では、化石燃料や石油ガスを用いたエネルギー分野において、約500万件の仕事がなくなるとされています。(※1)


資料のタイトルにあるNet Zeroとは、GHG排出量と同量の削減を意味します。カーボンニュートラルと類似する言葉ですが、二国間クレジット制度等を用いた「相殺」ではなく、実数としての「削減」を意味します。(※2)

図 1 出典:IEA. “Net Zero by 2050”. IEA. 2021-5.(※1)

縮小される領域の就業者が、次なる就業先を見つけるにあたり、前職・現職の経験を活かせるポジションが再生可能エネルギーの領域にあれば大きな問題にはなりません。しかし現在、採用が活発化している再エネ・省エネ領域では、経験者採用を強化しており、求められる技術・スキルを持ち合わせていない人にとっては同じエネルギー業界であっても、次の就業先を見つけることは容易ではなく、結果として脱炭素社会の実現の妨げになってしまいます。(※3)


EY-Parthenon(世界的な経営戦略コンサルティング会社)が2021年7月に発表したレポートによると、世界50か国で再エネ事業プロジェクトは約13,000件にも上り、現在は資金面で動き出してはいないものの、プロジェクトが動き出せば1,000万件のグリーンジョブの創出、2兆円分の投資機会が発生するもので、グリーンリカバリーの実現を強固にするものとされています。(※4)


適切な政策と規制を国際的に実行すれば、民間企業の再エネ投資を加速させることに繋がります。政策決定においては、「The Global Commission on People-Centred Clean Energy Transition」が2021年1月26日に発足され、デンマークの首相Mette FREDERIKSEN氏を始め世界各国の首脳や専門家が集まりクリーンエネルギーへのトランジションについて議論を行っています。(※3)


議論にあたっては、個人への社会的・経済的な影響を含む、市民一人ひとりがトランジションを通して利益を得られることを成功の一つの基準にした考え方、つまりは個人を重要視した検討が行われています。具体的には人権、就労環境の安全性、社会保障、技術的成長、労働市場政策、社会的対話が重要なポイントとなっています。(※3)


トランジションの成功の為には、資金投資と労働力確保の為の教育が必要であり、地域経済復興の為の行政支援が重要です。つまりは、長期的な経済支援と行政や国際機関を含むステークホルダーが議論の場で価値を訴えることです。そのためにもエネルギー分野の雇用に係る詳細データに基づく分析を行い、労働力の開発と新しい資源を集める計画の策定が求められています。(※3)


Tony Blair Institute for Global Change(国際NPO)のカーボンニュートラルの専門家であるTim Lord氏は、再エネ発電利用を拡大する為の地域インフラとスキルの開発において官民連携が必要不可欠であり、結果的に不足している資金を集めることにつながると話しています。(※4)


また、Tim Lord氏は資金不足で進んでいないプロジェクトが3年以内に動けば、国際的な再エネの普及率を倍増させることができ、G20の国々を含めた47か国で、約束されたGHG排出削減の22%を実現できるとも述べています。iiこれは、「産業革命以前から+1.5℃に抑える国際的な重要ターゲット」を守るための、2030年までに削減しなければならないGHG排出量の9%に相当する量です。(※4)


現在、2021年11月に開催されるCOP26気候変動サミットに向けて、各国のエネルギー分野における雇用については実例を集めた分析が進められています。i今後は、実例に基づく対応策を検討し世界基準を決めていくことになり、COP26は化石燃料からクリーンな電力へ移行するために新興経済を刺激する重要なキーになるものです。ii低炭素化に向けた具体的な取り組みを先進国が示し、途上国が自国に取りいれることで、全世界的なトランジションへと発展していくでしょう。


記事掲載日:2021年8月12日

※1  IEA. “Net Zero by 2050”. IEA. 2021-5. , (2021-8-12)

※2 Georgios Zampas. “‘CARBON NEUTRAL’ AND ‘NET-ZERO CARBON’: WHAT’S THE DIFFERENCE – AND WHY DOES IT MATTER?”. HERBERT SMITH FREEHILLS. 2020-12-2. , (2021-8-12)

※3 Laura Cozzi & Brian Motherway. “The importance of focusing on jobs and fairness in clean energy transitions”. IEA. 2021-7-6. , (2021-8-12)

※4 Megan Rowling. “Clean energy investment could create 10 million green jobs”. World Economic Forum. 2021-7-9. , (2021-8-12)

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